病院経営の現状、赤字の割合はどれくらい?
「新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況の調査」によると、2020年3月における赤字の病院の割合は48.6%という結果が出ています。
2021年3月では47.9%とわずかながら赤字経営の割合が減少していますが、病院全体の約半数近くが赤字経営に陥っています。
コロナ患者を受け入れている病院と受け入れていない病院の赤字の割合を比較してみると、2020年3月の調査では、コロナ患者受け入れをしていない病院の赤字の割合は41.9%だったのに対して、コロナ患者受け入れありの病院の赤字の割合は56.9%と、コロナ患者を受け入れている病院のほうが赤字の割合が高くなっています。
2021年の3月の調査では、コロナ患者受け入れなしの病院の赤字の割合は36.9%まで減少しましたが、コロナ患者を受け入れている病院の赤字の割合は62.2%とさらに増加しています。
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2020年3月の赤字の割合 |
2021年3月の赤字の割合 |
コロナ患者受け入れなし |
41.9% |
36.9% |
コロナ患者受け入れあり |
56.9% |
62.2% |
これは、コロナ患者を受け入れることで、通常の患者の受け入れ人数の減少や緊急性の低い手術の延期、コロナ患者を受け入れる体制を作るために、一時的に外来病棟の閉鎖などを行っていることが赤字の増加に影響していることなどが考えられます。
実際に定例手術や内視鏡の検査数を2020年1月~3月と2021年1月~3月を比較した数字を見てみると、2020年の平均定例手術件数は576件、内視鏡の平均検査数は966件ですが、2021年では平均定例手術件数は522件、内視鏡の平均検査数は911件で2021年のほうが手術件数、内視鏡の検査数ともに減少しています。
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2020年1~3月の平均検査数 |
2021年1~3月の平均検査数 |
定例手術 |
576件 |
522件 |
内視鏡検査 |
966件 |
911件 |
コロナの終息の見通しが未だ立っていないことから、赤字になる病院の件数は今後も厳しくなることが予想されます。
病院の収益構造について
病院の基本的な収益構造は、以下の通りです。
【医業収益】
- 入院診療収入
- 外来診療収入
- 健診・人間ドック等の収入
- 室料差額やその他の医業収入
- 補助金・繰越金・支援金収入
【医業費用(経費)】
医業費用(経費)の中で最も大きな割合を占めているのが給与(人件費)で、病院、入院施設を持つ診療所、入院施設を持たない診療所ともに、経費全体の約半数の割合を占めるとされています。
(出典:公益社団法人全日本病院協会「新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況の調査」)
病院経営が赤字になる4つの原因
病院経営が赤字になる主な理由としては、以下の4つが挙げられます。
- 入院診療収入の減少
- 外来診療収入の減少
- 給与費(人件費)の増加
- コロナ対策経費の増加
一つひとつ詳しく見ていきましょう。
入院診療収入の減少
以下の表は厚生労働省の発表した令和元年度と令和2年度の入院診療収入を表したものです。
(単位:万円)
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大学病院 |
公的病院 |
法人 |
個人 |
200床未満 |
200床以上 |
令和元年度 |
1,300,557 |
400,312 |
141,594 |
53,009 |
88,805 |
482,349 |
令和2年度 |
1,239,912 |
378,533 |
140,147 |
52,289 |
88,121 |
467,548 |
(出典:厚生労働省「令和2年度 医療費の動向」)
病院の種類や病床数に関係なく、すべての病院で入院診療収入が減少しています。
特に公的病院では採算を度外視した診療を行わなければならないケースも多く、令和元年では公立病院の62.8%が赤字経営になっています。
外来診療収入の減少
以下の表は、厚生労働省が発表した令和元年度と令和2年度の外来診療収入を表したものです。
(単位:万円)
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大学病院 |
公的病院 |
法人 |
個人 |
診療所 |
令和元年度 |
1,968,859 |
574,164 |
183,781 |
72,115 |
10,207 |
令和2年度 |
1,906,907 |
547,328 |
180,922 |
70,203 |
9,663 |
(出典:厚生労働省「令和2年度 医療費の動向」)
入院診療収入と同様に、病院の種類に関係なく、いずれも外来診療収入が減少しているのが分かります。
入院設備を持たない診療所では収入のほとんどが外来診療収入によるものなので、このままの状態が続けば、今後も赤字経営の診療所が増加する可能性があります。
給与費(人件費)の増加
経費の中で最も多くの割合を占めているのが給与(人件費)です。
しかし、医師や看護師など医療従事者の給与額についてはほぼ横ばいで、大幅に増加しているところはありません。
しかし、その他の従事者を見ると一般病院では1.6人、療養型病院では2.4人増員されており、これは新型コロナウイルス感染症対策のための増員であると考えられます。
人員の増員に伴い、給与費(人件費)が増えただけではなく、医業収益が減少したことが人件費の割合が高くなるという結果につながっています。
コロナ対策経費の増加
コロナ前とコロナ後を比較すると、コロナ対策に関する経費が増加しています。
医療従事者が使用する感染症対策のための防護服(ガウン)、フェイスシールド、ゴーグル、マスクなどに加え、患者向けの消毒用アルコール、入口に置かれる体温計の設置などもコロナ対策として経費の負担が増えた部分です。
病院経営は今後どうなる?黒字化に向けた再編・M&Aの検討
病院経営状態の悪化は、深刻な状況になってきています。
帝国データバンクの「医療機関の休廃業・解散動向調査」によると、2021年の診療所の倒産件数は前年度に比べて1.8倍に急増しています。
診療所の倒産件数が急増した背景には、「コロナ感染のリスクを回避するための受診控え」、「感染者増加による労働条件の悪化などが原因による医療従事者の休職者の増加」などが原因になっていることもありますが、負債総額が50億を超えているという大型倒産の事例も発生しています。
赤字経営の病院と黒字経営の病院を比較すると、赤字に陥る原因には3つの大きなポイントがあります。
- 収益に対して人件費の占める割合が大きい
- 病床稼働率の減少
- コロナ禍による影響
収益に対して人件費の割合が大きい病院ほど、赤字経営になる割合も高くなっています。
人件費の増加は、コロナ対策のための人員の増員が原因になっているケースもありますが、給与体制に年功序列を取り入れている病院では人件費が増加していく傾向にあるようです。
また、入院施設を持つ病院の主な収入源は入院診療による収入です。
つまり、病床稼働率が減少すれば、その分病院全体の収益が下がることになります。
病床稼働率が減少する原因はコロナ禍が影響しているところもありますが、地方の病院では診療圏内の人口減少が影響している場合もあります。
赤字経営から脱却し、黒字化に向けた再編を行う方法としては、M&Aの活用が挙げられます。
日本ではまだまだM&Aに対する印象はあまり良くないという人も多いですが、M&Aを活用することで以下のようなメリットが得られます。
- 人材配置を流動的に行える
- 病院の機能を分け、効率的な病院運営が可能になる
- 買い手側の傘下に入ることで廃業を回避できる
病院の経営状態の悪化は、病院の経営者、病院で働く従業員にとって大きな影響があることはもちろんですが、万が一病院が閉院することになってしまった場合は、地域住民も大切な医療の場を失ってしまうことになります。
このような最悪な状況を回避するために、M&Aを活用し、黒字化に向けた再編を検討してみるのも一つの方法です。
病院経営黒字化に向けた再編は名南M&Aにご相談ください
今までも赤字経営の病院が多いことは問題となっていましたが、特にコロナ患者の受け入れを行っている病院の赤字は年々深刻な状況になってきています。
病院経営の不振から病院の廃業や解散という最悪な状況を回避し、黒字化に向けた再編を行う手段としてM&Aを検討してみてはいかがでしょうか。
名南M&Aでは、事業承継支援20年にわたる実績とグループで全国800件以上の医療機関への業務支援実績あります。医療の世界における経営の「見える化」を実現し、病院経営の安定・成長に向けてグループ全体で徹底的にサポートしていきます。
病院経営黒字化に向けた再編は、名南M&Aにご相談ください。